備前焼の不思議と民間伝承

備前焼花瓶による長寿南天の秘密

1. 上記の南天は室内光を受け、炭酸ガスと水を光合成している。

2. 無機塩類（ミネラル）は備前焼花瓶の内壁から供給される。備前焼の原料粘土は伊部地区を中心とする備前市内の低地周辺の山の、表層微粉土が流れ集り、堆積して粘土化したものであり＊１、植物の生育に必要な各種のミネラルを含んでいる。特に光合成に必要なマンガンを多量に含む。

3. 自然釉さえもかかっていない備前焼花瓶の内壁は、ガラス質の釉で保護されていないので、炭酸ガスが水に溶けて形成される炭酸、植物の根から分泌する有機酸等により浸食（植物風化）されやすく、無機イオンが溶出し易い。

4. １３００度近くの高温で半月近くも熱する備前焼の焼成は、各種鉱物の微結晶を析出させる＊２＊３。相接する結晶が異種であるか、あるいは同種結晶であっても結晶学的に異なる面が隣接するとき、それらの面間に接触電位差が生じ、無釉の内壁表面に局所電池が形成される。この局所電池の電極反応は自らを浸食させ、無機イオンの溶出を助ける。

5. 備前焼は遠達力のある放射束を発している。現在のところ、この放射束の正体は不明であるが、銅板で遮蔽され、ガラスを透過し、溶質の水の溶解を促進する性質をもつことが実験的に確かめられている＊４。おそらく、この放射束は、植物の必要とするミネラルイオンを内壁から溶出させる過程を促進させると考えられる。

6. この放射束の作用、局所電池作用および内壁表面ー水間の水素結合相互作用は、水および水溶液の構造を変化させ、生理的に活性な水（biologically active water）を作り出していることが推定される。これは、人間にとっては『おいしく』、動物や植物にとっては生育を促進し寿命を長くする効果をもつ水および水溶液を作り出すと考えられる＊５。

7. 不透明であり黒褐色の内壁をもつことがもたらす備前焼花瓶内部の光循環は、水の腐敗をもたらす微生物のうち、植物性のカビや藻類等の発芽、繁殖を抑制する。このことが根腐れ防止作用をもつと考えられる。

• ＊１　備前市香登（かがと）の田の地表面から５mの深さまで０.１m間隔で採取した粘土の堆積年代のけいそくが岡山理科大学の研究室で進行中である。

• ＊２　備前焼内壁の粗面には微結晶が密集している。この微結晶は、ビールに溶けている炭酸ガス分子が集合して泡を形成する（液相から気相に相転移する）ときの発泡核として働く。

• ＊３　焼成温度が高すぎたり、松割り木の灰を被ったとき、内壁よりも自然釉によりガラス質コーティングされて滑らかになり光沢をもつことがある。

• ＊４　室温の物体が発する熱放射は『遠赤外線』であるが、これはガラスを透過しない。

• ＊５　『備前焼の機能に関する民間伝承集』参照